Masuk大会当日
大会のルールは魔法、魔術あり、真剣あり。寸止めは必要なく戦闘続行不可能と審判が判断すれば試合終了。
実質初撃で致命的な一撃を負わせることができれば殺しもありの、
ほぼルール無用の地下闘技場にありがちな過激な大会規定だったはずだ。だが、急遽真剣は木剣となり、
魔法、魔術も呪い系や再起不能になるレベルの攻撃魔法、魔術は禁止の 実質学生の大会でもやるのかというレベルのルールでの開催となった。ここで魔法と魔術の違いについて簡単に説明しよう。
魔法とは、単純な命令や魔力変換の末に行使が可能なもので、
魔術とは、例えば魔法を複数組み込み複雑な術式を構築することを指すが、
この魔法と魔術との定義は実は曖昧で、 一般的には高い効果をもたらす術を魔術と呼ぶことが多い。観客からはこのルール変更について大きくブーイングがあったが、ルールの再変更はないようだ。
第一試合から順調に試合は進んでいき、彼の出番がやってきた。
審判が試合の開始合図を行う。「Bブロック第四試合、TKO有の予選をこれから始めます!」
彼の対戦相手はこの街の数少ない貴族の長男のようだ。
さすがは貴族、立ち振る舞いは剣術をしっかりと 修められている師匠がいるのだろうが、気になることが一つ。貴族の息子から感じ取れる自然魔力の「色」
厳密には魔力に色はないのだが、
長く戦闘経験のある魔術師は相手の漏れ出る魔力を色彩化しどんな戦闘タイプを好むだとか、
もっと言ってしまえば今何を考えているのか読み取ることができる者もいる。彼は相手の思考まで読み取ることはまだできないが、貴族の息子はわかりやすかった。
(こいつ、どんな手段を使っても俺に勝つ、いや殺す気だな)
「試合、開始!」
最初に動いたのは貴族の息子だった。
開始と同時に彼に向って貴族が鋭く突進する。先日戦ったユニコーンよりも突進速度は遅い。
余裕で躱そうとするが、振り上げられた剣は囮で体術による初撃を入れてくる。右膝から彼の腹めがけて繰り出される蹴りを、右手で持った剣の柄で合わせて防ぐ。
初撃を防がれた貴族は「チッ」と小さく舌打ちをし、
追撃として剣で彼の目を正確に狙ってくる。バックステップで横に薙ぎ払われた貴族の剣から最小限の動きで躱し、
一旦距離を取る。初撃と二撃目を完璧に防がれた貴族は少し苛立った様子で彼を煽り立てる。
「ユニコーンを単独で討伐したと聞いていたがこの程度か!四段目の魔物も強くなさそうだな」
「そのユニコーンを討伐するときに君はいないようだったが、
君が倒しにくればよかったんじゃないのか?」「はっ!これだから平民は何もわかっていない!
貴族の責務ということを!貴族とは、民草を守るもの! 魔物を倒すことが貴族の仕事ではない!」「そうかい」
ご丁寧にそんなわかりきったことを説明し、そして奴のあの顔。
(やはり何かあるな)
その時持っている剣から鼻をツンと刺激する匂いに気づく。
注意して見ると奴の右膝をガードした柄部分から匂いが発生している(これは腐食か?)
改めて貴族の装備を確認する。
(奴の装備、ずいぶんと珍しいものを使っているなとは思ったが、そういうことか)
明らかに対腐食性を元に設計されている。
両ひざにはテンザライト鉱石をあしらわれた、
腐食を軽減する加工がされている。木剣の色も彼が持っている物より多少深い色をしており、
恐らく深緑の剣だろうと推測できる。真剣よりはもちろん切れ味は劣るが、通常の木剣よりも軽くて取り回しがよい。
加えて、こちらも対腐食の性質を持つ。通常は腐食攻撃を使う植物系の魔物を討伐するときに装備が溶け、
劣化するのを防ぐために用いられることが多い。これは装備の性質を利用した、「毒装備」だ。
見たところ、テンザライト鉱石をあしらわれた両ひざと両肘、
深緑の剣以外に対腐食加工が施された様子はない。躱すことはそう難しくないが、奴の持っている攻撃手段が腐食による攻撃だけとは限らない。
勝負を長引かせるのは悪手だ。木剣同士で打ち合うのも得策ではない。
ユニコーンを討伐した威力では最悪奴を殺しかねない為、
最悪の場合はお尋ね者確定である。ならばどうするか
木剣による打ち合いではなく魔術で、奴を殺さず無力化する。「あの手でいくか」
彼が木剣を地面に突き刺すと会場がざわめく。
(諦めたのか…?)
彼が右手の手の平に意識を向けると、初級魔法のファイアボールが浮かび上がる。
どうやら腐食攻撃に気づいたようだが、
防ぐ手段が遠距離攻撃か、全く分かりやすい奴だな! とでも言いたげな不敵な笑みを貴族が浮かべる。(ここからだ)
彼がもう片方の左手の手の平からウォーターボールが出現する。
「凍れ」
彼が命じるとウォーターボールが氷の塊に性質を変化させる。
この試合を見ていた金髪の彼女が思わず声に出す。「二種同時の魔法行使に片方は性質変化、
それなのにファイアボールは安定して維持されている…」「嬢ちゃん、あれが魔術戦の“基礎”だぜ。しっかり見ておくんだな」
白髪の剣士はどこか懐かしいものを見るように呟く。
左手の氷塊には魔力糸を接続させ、空中に固定し
右手のファイアボールも同様に魔力糸を接続しているが、接続本数がおよそ二十本。一つの操作なら一本の魔力糸で事足りるが、今回は違った。
右手のファイアボールから更にファイアボールを連続で貴族の周囲に発射。
精密にコントロールされたそれは貴族めがけて直進したがどれも命中はしない。
それを見た貴族は更にニヤリと笑い「何を始めるかと思えば、ファイアボールの連続射出か!それもどこを狙っている?」
無言で貴族を指さす。
「何を馬鹿なことを」
命中しなかったファイアボールが、貴族の周りを取り囲むように静止している。
発動から射出された魔術はその時点で「工程を終了」している。
本来空中で動きを止めるように追加で命令を出すことも、魔法を維持することも不可能。
それゆえ、目の前で動きを止めたファイアボールの挙動が
信じられなかった貴族は思考と動きを停止する。 注意していたはずの左手の氷の塊からも、意識ができなくなる。「なんだこれは、一体貴様はなんなんだ!?」
「さあな」
一斉にファイアボールが貴族へ全方位から集中して直進を始め、
爆炎と共に濃い土煙を上げる。「この程度、一発食らうことを前提に回避することは可能だ!」
「ああ、そうだろうな」
貴族がファイアボールの雨を抜ける先を選んだのは比較的層が薄い箇所。
それが罠とも知らずに。
逃げ込んだ先には先回りした彼が左手の氷の塊を前に構えている。氷塊が彼の魔力によって形を薄く変化させ、貴族の四方八方を氷の壁で取り囲む。
「なんなんだ、こんなの知らない!ふざけるな!ここから出せ!!」
貴族の悲痛な叫びとともに、力任せに木剣を薄く張られた氷の檻に叩きつける。
何度も打ち付けられるが、氷の檻にはヒビどころか傷すらつかない。「どうして壊れない!!」
「壊れないさ、その氷の檻は固定しているんだからな」
「何をわけのわからないことを!くそっ、くそぉ!」
「さて審判、俺はこれからこいつで奴をあの空間ごと焼くが、どうする?」
手には形状を大弓にされたファイアボールだったものに、
矢の形状に変化させたファイアボールを番える。審判が観覧席の方をちらっと確認する。
すると開催の責任者が手を小さく上げる「試合終了!勝者八番!」
わぁぁぁ!と歓声が上がる
曲芸じみた見たこともないだろう魔術の「応用」を目にした観客たちが沸き立つ。「今の、先生も見たことある?」
「性質変化や形状変化は見たことはあるが、
空中で魔法を止めて狙いを途中で変えることは見たことがねぇな。 悪い嬢ちゃん、基礎とは言ったがあれは正真正銘の魔術だ」「正真正銘の魔術…」
幼少期に魔術と呼ばれるものは見たことがあったが、
自由自在に魔法をコントロールし、 単純な魔法操作だけで複雑な命令を追加で出すことは見たことがなかった。「まぁBグループの決勝に行けば奴と当たる。
そこで奴の本気を引き出して見せるさ」歩みを止めた彼女を気にせず上機嫌で先を歩く白髪の剣士。
旧王朝がまだ栄えていた頃、いや、革命により没落する前、レルゲンは庭で遊んで、勉強して、少し昼寝をして、また勉強して。そんな王朝の中では平和と呼べる日常だった。幼い頃は常に両親の言う通りに生活し、決まった事を決まった通りにこなす日々。そんな日々にも疑問は持たずに、二年の月日が流れた頃、ある魔術師が小綺麗な鞄を片手に訪問してきた。「皆さん、本日はお招き頂き恐悦至極。私はナイト、ナイト・ブルームスタットと申します」「ようこそナイト殿、我が王朝へ。さっ、長旅でお疲れでしょう。どうぞお寛ぎを」レルゲンの父が挨拶を返す。普段は自分こそここの主人だと言わんばかりの態度だが、このナイトと呼ばれた人物は、父が畏まった態度に出る程の人物なのだろうか。幼い頃のレルゲンは新鮮な気持ちになり、それは青年になった今でも鮮明に覚えていた。「おや?そちらが“例”の?」「ええ、シュトーゲンになります」初めは父の後ろに隠れたが、勇気を振り絞ってナイトに挨拶を返す。「レルゲン・シュトーゲンです。初めまして」「とっても礼儀正しい子ですね。初めましてこんにちは。今日から貴方の魔術の先生になりました。これからよろしくお願いしますね。シュトーゲン君」ナイト先生の授業はとても難しく、魔術理論に関してはさっぱり理解できなかった。それでも、何日かに一度の課外訓練は楽しかった。「ねぇナイト先生、今日は何を教えてくれるの?」「そうですねぇ、シュット君は座学がまだまだですが、実技が素晴らしいですからね。今日は念動魔術について教えようと思います」「それ知っているよ!お屋敷の人がよく使っている、魔力の糸を使うんでしょ?」「そうです。でもこの魔術は、お屋敷で使える人はいないと思いますよ」「そうなの?どうして?」「魔力で糸を作らず、ただ自分の意思のみで有りとあらゆる“事象の操作”ができる魔術です」「事象の操作?」ニコッとナイト先生が笑う「例えばそうですね。シュット君、今欲しい物はありますか?」「うーん、新しい剣が欲しい!」「それはまた何故でしょうか?」「お父さんが言っていたの。真の戦士は、剣と魔術、どっちも一流?なんだって!」「それは素晴らしい考えですね。私は魔術以外が全くなので、もしそれができるようになったら、シュット君は私以上になれ
次に彼が目を覚ましたのは、闘技大会があった日から三日後だった。「お姉さん!お兄さんが目を覚ましたよ!ほらお姉さんも起きて!」「えっ!彼が起きたの?」机に突っ伏して寝ていたマリーががばっと勢いよく起き上がる。「はしたないぜ、嬢ちゃん」少し呆れながら笑い、差し入れと思われる袋を片手に扉を開ける白髪の剣士。「うるさいわよ、ハクロウ」徐々に意識がはっきりして、全身の痛みに気が付く。手には厳重に包帯がまかれ、全身にも薬草を染み込ませたであろう包帯がグルグルとまかれていた。マリーに起こしてもらい、ゆっくりと座る。「そういえば、アンタの名前、聞いていなかったな」「なんか遅すぎる気もするが。自己紹介をさせてもらうぜ。俺はハクロウ。姓はない。ボウズ、嬢ちゃんを護ってくれて感謝する。あれは俺じゃどうにもできなかった。本当にありがとうよ」「それで?そろそろ貴方の名前を教えてくれてもいいんじゃないの?私の英雄様」少し考える。だが、短期間とはいえ共に過ごした中だ。この人達なら、きっと受け止めてくれる。「俺は……俺の名前はレルゲン、レルゲン・シュトーゲン」場が一瞬凍り付く。だがその場を引き戻したのは、やはりマリーだった。「レルゲン…もしかしなくても「旧王朝」の名よね。学が高いことを言うと思っていたわ」未だに緊張している状態のハクロウ。今ここに剣があったとしたとしたら、恩知らずな行動に走っていたかもしれない。「ハクロウ、彼は経歴はともあれ、暗殺されそうな私を助けたお方よ。控えなさい」「すまねぇ、頭ではわかっちゃいるんだが、どうかしちまってるな。でもよ、感謝していることだけは本当なんだ。信じてほしい」「いいさ、こうなることをわかって俺も名乗ったんだ。気にしないでくれ」「なんか難しくてよくわからないけど、みんな仲良しってことだよね?」「そうよ。みんなで乗り越えた。だから仲良し!」「おいしいところは全部レルゲンが、いや、やっぱりボウズはボウズだわ。このボウズが持って行っちまったがな」「もう!水を刺さないでよね」下の方から賑やかな気配を察してか、女店主が一声かける。「この街の英雄様がお目覚めなのかい?賑やかなのも結構だけどさ、水でも持っていってやんな」「あたし行ってくる!」元気に階段を降りていく店主の娘。どうやら宿屋の親子
「貴方の企みは潰させてもらったわ」「お前に話すことは許可していなぁぁぃいいい!!!この卑しい雌豚がぁ」今までの口調とは打って変わり、中性的な声からドスの効いた男性の声へと変わる。「いやぁあん、ワタクシッたら。いっけなーい!てへっ?」(上空からすでに投擲していることに気づいたか!勘のいい奴だ)幸い魔物の動きは鈍い、耐久力と、攻撃、防御力が高いタイプだろうことは魔力反応を見ればわかる。闘技場の上空は幸い何も障害となる建物がなく、青々とした空が広がっている。「そこからお退きなさい、アシュラちゃん」(主人の命令には従うタイプだな)「いやねぇ、不意打ちだなんて。せっかくのお祭りなんですもの。もっと楽しみましょ?それに貴方、随分とこちらを探っているようだけど、狙い通りにいくかしらね?」「さあな」投擲された剣がアシュラと呼ばれた魔物めがけて飛ぶが、これを必死に躱そうと動く魔物。空中で自動追尾された無数の剣たちは正確に魔物へと突き刺さる、はずだった。重力と念動魔術を合わせた剣の雨は正確に魔物へと命中したが、体を覆う甲殻のようなものが剣を弾いた。ガキィイインン!!!大きな衝突音が響き渡る。まるで剣と剣が衝突したときに出るような轟音。剣は衝撃に耐えられずに派手に火花を上げて粉々に砕け散り、ユニコーンを屠った時以上の攻撃があっさりと防がれる。残った剣は空中に帯同させていた二本の剣のみ。「あっらぁ?アシュラちゃんが強すぎて、全く攻撃が通らなかったわね?じゃあ次はこっちから行っちゃおうかしら!ここで息の根止めてやるわ、雌豚」「あいつ、殺すわ。二回も、二回も雌豚って言った!」「高尚な術が使えるようだが、用い道がいけねぇ。老体に鞭打つときかね」二人の絶対殺す宣言に、彼は少しだけ引いた。「あら?やる気?この五段階目のアシュラ・ハガマに勝てると思っているのかしら、ね!」五段階目の魔物。中央王族機構筆頭の近衛騎士団が束になってようやく足止めできる強さの魔物と言っていいだろう。その大人数で相手する魔物をたった三人で相手しなければならない。加えて、まだどんな手段で攻撃を行うのかわからない仮面の男。素人目にも、戦況は絶望的だった。言い終わると同時に暗殺ギルドの長らしく黒く塗りこんである暗器をこちら目掛けて投擲してくる。マ
まばらに逃げ始めている観客を避けつつ、もうじき魔物がいる場所まで辿り着いた。魔物が近くなるにつれて、彼らとは逆方向に逃げる観客が増えてくる。それにぶつからないように速度を殺さず向かうと「ガァァァアアアア!!!!」魔物の声が響いている。幸い魔物を避けるように観客が退避はしているが、いかんせん戦闘するには狭い空間だ。魔物が移動したら被害が大きくなるのは必至。(あれはウルフファング…!)「俺が牽制する!その隙に一撃頼んだ」「分かったわ」魔物を視認する。ウルフファングは三段目の魔物だが、近々四段目に昇格するのでは無いかと噂になっている。主な生息域はユニコーンと同じ森の奥地。本来群れで行動することで知られているが今回は一頭のみ。成獣だと思われるが、先程の咆哮といい、まともに音圧を受ければたちまち体が数秒間硬直して動けなくなる。既に躱した観客の中にも硬直し始めている人もいた。今はまだ魔法陣付近にはいるが、いつ動き出しても不思議はない。「また咆哮がくるぞ!」(先程よりも大きい咆哮を出すつもりか)彼らが接近してきたことに対する、臨戦体制に入ったことへの合図。「咆哮は何とかする!構わず突っ込め!」ウルフファングが咆哮を上げるよりも早く、自分とマリーの耳に小さいウォーターボールを出現させ、耳を保護。「きゃっ?!」と驚いたような声を一瞬あげるが、速度は緩めずにウルフファングまで駆ける。加えてすぐに音の衝撃波の直撃を防ぐために、帯同していた十本の剣を横一列に並べる。「ガァァァアアアア!!!!!!!」先ほどとは比べ物にならない音圧でウルフファングの咆哮が響き渡るが、二重に対策された二人は硬直することなく突っ込み続ける。咆哮が終わったとほぼ同時に剣の間合いに入り、下段から垂直に首元へと真っ直ぐ軌道を曲げられた二本の剣が、ウルフファングの首を捕らえたかに見えたが、四段目に昇格が控えているだけあって反応が速い。薄皮一枚を切り裂き小さく鮮血が上がる。上体が逸らされ更に懐が広くなり、この隙間にマリーが素早く潜り込む。戻ったときにはマリーが頭の真下に位置取り、うまく死角に入った。「やぁぁぁああああ!!」裂帛の気合いで死角からの一撃。元々の剣の切れ味の良さも相まってか、滑るようにウルフファングの首が落ち、魔石へと還る。
後一歩のところで上空に感じた覚えのある魔法陣が闘技場全体を覆う。お互いに戦闘を瞬時に中断し、何が起きているのか情報を集めようと周囲を見渡す。(これはユニコーンの時と種類は違うが、同じ奴が起動しているな。となると魔法が飛び交っていた闘技場の魔力を使ってまた魔物を召喚するつもりか?だがそれならもう対策はある)彼が右手を空に掲げ、自身の知覚できる感覚を広げる。仮想的に可視化させた周囲の環境を取り巻く魔力を一点に集めるべく、魔力糸無しで念動魔法を発動させる。だが、彼の思惑通りにはならなかった。確かに魔術の発動は出来た、一瞬だが周囲の魔力を集めることも。しかし、魔術の「継続」が出来ない。(これは、消滅魔術か…!)消滅魔術とは魔法や魔術の発動を検知、即ち魔力が体外に放出された段階で消滅させる魔術だ。これもまたユニコーンの時と同じ魔術師がやっているのだろうが、こんな代物扱える人物など世界に数えるくらいしかいないユニーク魔術に近いほど珍しい。ここで始めて事の重大性に気づく。(どんなに犠牲を払ってでも消したい奴がこの中にいる…!)足に魔力を込めて垂直跳びをする。純粋な筋力による跳躍と、魔力による跳躍の付加。その高さおよそ二十メートル。跳躍しきってから念動魔術による空中浮遊が即座に消滅魔術によって落下を始めようとする。しかし落下を始めるよりも速く、念動魔術を再度発動。再度、念動魔術の消滅。再度、念動魔術の発動。この消滅と発動の繰り返しを高速で繰り返すことで空中浮遊を維持する。始めに魔力を集めようとした方法を思い出し、空中の残存魔力の流れを感知、魔法陣の位置を逆探知する。(一、二、三、四……五個だな)五か所から魔力を吸い上げており、星形の頂点を位置する場所に魔法陣が張られているようだ。観客はまだ彼女との戦闘の最中で彼がルール違反をしたと思っている。空中浮遊を解除し、大会運営に用意されている椅子が集まる上座目掛けて移動する。この異常事態を伝えるために大会運営席に到着したが、一歩遅かった。黒衣のフードに身を包んだ連中が、恐らく毒が仕込んである武器を片手に運営陣を拘束している。それを見た彼は毒武器を魔力糸無しで操り、毒武器の所有者に向けて刃先を強引に向かわせた。何とか抵抗しようと力を込めるフードを被った賊の抵抗空しく
大会もいよいよ最終戦木剣のみの打ち合いになる相手はどんなお貴族様かと思っていたら「なるほど、相手は君か」「ええ、まず試合が始まる前に謝罪をさせて頂戴。私が有利になるルールに何度も変えさせて」「いいさ、結果は変わらないからな」「ふふっ、貴方そんな冗談も言えるのね」その冗談とは、これほどまでの縛りルールでも勝てると思っているのか。またはそんな減らず口を言えるタイプだったのかと思っているのかは分からないが、お互いに決勝まで駒を進めてきたもの同士。気分が高揚していた。「特別試合、始めてください!」最初に動いたのは彼女の方だった。木剣の種類は彼女の背丈には不釣り合いな長さで、両手で主に扱うロングソードに近い形状。それを片手で簡単に上段へ振りかぶり、飛び上がる。剣本来の重量と、彼女の並外れた膂力。飛び上がってから振り下ろされるまでの間に落下する重力を掛け合わせた、必殺の一撃。一連の動作速度も申し分ない。これをまともに受ければ幾ら彼でも木剣を破壊されて試合続行不可能となり判定負けとなるだろう。だが、巨大な威力を持った一撃を受け流す方法は白髪の剣士との対決でよく「見た」彼女の一撃が彼の剣に当たってから、上体を捻りながら剣同士を滑らせて受け流す。「なっ」(その技は先生の…!)(悪いな嬢ちゃん、技見せすぎた)このまま剣を滑らせながら前進し、彼女の腹に一撃を加えて試合終了かと思いきや、片手で振り下ろされたロングソードを両手で持ち直し、無理矢理空中でガードの体制を作る。木剣同士が打ち合い、彼女が開始位置まで飛ばされるが、これを自慢の膂力で何とか姿勢を崩さない。着地の際によろけるなら、そのまま追撃をしようと準備していた彼だったが、不発に終わる。「貴方、真似っ子は随分とお上手なのね」「そちらこそ、見た目によらず力強すぎるだろ。何食ったらそんな力つくんだよ」「失礼な!食べているものは普通よ!」食べる量について言わない辺り、大飯食らいなのかなと思ったが、その後の展開が容易に想像できたのでやめておく。今度も先に仕掛けたのは金髪の彼女。だが今度は飛び上がらずに地上で細かく攻撃を仕掛ける。彼はまだロングソードの遠い間合いで、あたかもショートソードの用に扱う彼女に対応がやや遅れている。それでもまともに打ち合わず、躱し、いな







